マーケット・インサイト

10 年債利回り上昇に必要な需要回復

投資家は長期金利が1%から2%に上昇することの影響を考慮すべきでしょう。

毎年バイロンと10大サプライズ予想を作成する楽しみの一つには、肯定的、否定的な見解どちらも含め、読者から得られる反応の数々が挙げられます。2021年のサプライズの9番目に、米国10年物国債の利回りは今年2%に近づくと予想しました。現在、このサプライズは、バイデン大統領による1.9兆ドルに及ぶ刺激策の提案を踏まえた政治的現実と、これまでより感染力の強いコロナの変異株を巡る新たな懸念によって、真偽が問われるかたちとなりました。米国10年物国債利回りの急上昇を心配している投資家も多いことでしょう。

私は、米国経済は十分な勢いを得て、近いうちに自律回復による成長軌道に入り、イールドカーブもそれに伴ってスティープ化すると見ています。

過小評価されている潜在的成長
21年第2四半期の実質GDP(国内総生産)成長率のコンセンサス予測は足元で前四半期比約5%です。こうした状況下、当然のことながら予測値には幅があります1。大部分の国民が屋内にとどまり、貯蓄率も記録的な水準に上昇している状況で、一国の消費予測をモデル化することは容易ではありません。複数ある現在の予測のうち、私たちは「上振れ」なシナリオを採用します。冬が過ぎて春が来れば、入院率は下がり、人の移動は増え、個人所得は再び過去最高を更新すると予想します。図表1は、所得の増加と支出の減少が同時に生じた様子を示しています。この差異は解消され、消費者需要は急回復するとみています。

図表1:個人所得と個人消費支出(および収束予想ペース)
(2020年1月時点を100として指数化)

出所:経済分析局、2020年12月31日時点。2021年のデータは成長軌道を説明する理論値です。

サービス業が成長の主役に
図表2・図表3に示すように、最も成長余力があるのはサービス・セクターです。サービスへの消費支出は米国GDPのほぼ半分、総消費の69%を占めています。商品への支出がここ数ヵ月で過去最高を更新したのに対し、サービスへの支出はコロナ禍以前の最高値を7%下回っています。今年は、サービス需要の回復が堅調となり、成長を大きく押し上げると予想します。

短期的にはリフレーション、長期的にはディスインフレーション
今後数ヵ月は供給網の弱さがネックとなって需要の成長に追いつかず、物価上昇圧力を引き起こす可能性があります。サービス業については、供給網の脆弱性から受ける影響は相対的に軽微になるとみられるものの、レジャー産業や接客業など、特に厳しい打撃を受けた業界の多くの企業が廃業に追い込まれたことから、経済はこの分野でも生産力を失っています。たとえば、ニューヨーク市では市内のホテルの20%、客室数換算で4万2,000室以上(コロナ禍以前の合計の3分の1)が閉鎖されました2。生き延びた企業は記録的な需要と不十分な供給に直面し、かつてないほどの価格決定力を得る可能性があります。長期的な視点では、経済低成長の長期化とインフレ上昇率の鈍化という軌道に回帰すると予想されます。

市場のデカップリングの逆転が想定される
市場の長期的なインフレ期待を表す10年物米国債のブレークイーブン・インフレ率は、昨年3月中旬に0.5%で底打ちし、足元は2.13%に回復しました。これは2018年10月以来の最高水準であり、2015年以降のパーセンタイルでみると上位96%に当たります3。これは、フラット化したイールドカーブに示される市場の短期的な悲観と、今後の景気回復によるリフレ―ションの間での緊張状態を示唆しています。FRBによる金融緩和策の支援の下で経済活動が再開する中、10年物国債の利回りがコロナ禍以前の水準に回復し、イールドカーブがスティープ化するための土台が築かれていくでしょう。このような環境では、価格決定力のある企業は短期的なリフレーションから恩恵を受けることができる一方、負債レベルの高い「ゾンビ」企業は債務の借り換えが困難となる可能性があります。

投資家は長期金利が1%から2%に上昇することの影響を考慮すべきでしょう。具体的には投資家は、保有債券のデュレーションの短期化や、変動利付債および増配余力を持つ企業を選好することで、この金利上昇の恩恵を享受できるでしょう。


  1. Source: Bloomberg, represents the median of economic forecasts available as of February 2, 2021. Growth rate is quarter-over-quarter, seasonally adjusted annual rate (SAAR).
  2. Source: NYC Department of Planning, as of January 1, 2021.
  3. Source: Federal Reserve Bank of St. Louis, most recent estimate as of January 29, 2021.

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Market Insights 和訳版
本レポートは、ブラックストーン・グループ のチーフ・インベストメント・ストラテジストであるJoe Zidleにより執筆されたマーケット・インサイト (2021年2月発行) の和訳版です。本レポートは情報提供のみを目的としており、広告、特定の金融商品に関する投資助言・勧誘、及び販売等を目的としたものではありません。また、本レポートの一部または全部を、弊社の書面による事前承認なく第三者へ転送・共有することを禁じます。

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